綺麗になりたい

綺麗になりたい。綺麗。高潔。高潔でありたかった。私は全然高潔ではいられなかった。いられなかったというより、いないことを選んだ。その場その場で私が上手く立ち回れることを選び、そうなるように振る舞った。案外大丈夫だった。潔癖な時の私に見られては、軽蔑されそうではある。でもやっぱり、ここでは上手く立ち回れるように振る舞うことが私の第一義で、だからそれはそれで筋が通っているから葛藤がないのだと言われればその通りである。上手く立ち回れてよかったね。でも今日の振る舞いはいささかオーバーで恥ずかしかった。明日は一人じゃないみたいだけど、明後日は一人だろう。それで終わり。ひっそりと幕を閉じる。絆された。出家する人たちは、どうやって絆を絶っていたんだろう。つらそうだった。よく覚えている、誰にも言わずに、家族に会って、帰って、髪を切っちゃった父親/息子の話。

 

その場でうまく立ち回れるようにするための手段として私が選んだのは、愛想をよくすること、しっかり挨拶をすること、ちゃんとすること、相手の在り方に添うこと。私はその場が上手く回るようために、そのためだけに、相手が求めている像になる。そうやって、うまいこと立ち回っている。相手の価値観に乗じる。女性蔑視の価値観だったら、それに乗じる。若い見れた容姿の女としての私を褒めるような価値観なら、それを享受していると言う。もっと謙虚になれ。そしてその価値観はよくない。乗じた私もよくない。今日お話しした女性は、いわゆる「女性」像を持った男性的な意見を持った人だった。いつも通り私は、何も考えず(自分の意見を介入させることなく)、今日の女性の在り方に添っていたけど(発言につっかかったりせず、そうですね~と話し続けていた、話自体は面白くて、楽しかった)、冷静になって考えると、あれは、決して清くいられなかったなと思う。えりちゃんのようにはいられなかったなと思う。その場を楽にやり過ごすのではなく、世界をよりよくする行動をした彼女。翻って私は、なんだかんだああだこうだ言いながら、その場をうまく立ち回ることを選んで、世界は悪くなった。女性が集まっても別に怖くはないと思う、時と場合によるでしょう。「若い愛想の良い見れた容姿の女」という私の属性(属性なのか?特徴?)によって、私の周囲の物事が進んでいると考えるのは、しんどくないのだろうか。私は居心地が悪かった。これから失っていくものに対する恐れもあり、若さを売るのは怖いから、違うものにシフトしようと思ったことを思い出した。「それは軽蔑します」と言ったが、軽蔑なんて、私は人として対等でありたかった。小島先生が言っていたけど、やはり、恩恵を与える側/与えられる側という、主体と受け手な構造になっていて、だからここにはどうしたって不均衡があり、その不均衡は差別であるという話、今日話した彼女は、その不均衡をなんの疑いもなく受け入れているなと思った。私はそれに乗じた。

 

見れた容姿の愛想のいい若い女。これが私の価値か。頬がひきつる。これを許容していた私が一番ひどい。それに準じて、うまいこと波に乗った私。上手く立ち回れてよかったね(嫌味)。女子校が良かったのは、私が見れた容姿の愛想のいい女であっても、みんな女子だから、女子という属性はなくて、人間として扱われたことだ。見れた容姿の愛想のいい人間(これもどうなんかな)。それから、普通にして出てくる愛想をそのままにできた。男性に対して普通に出てくる私の愛想を、私は躊躇っていた。なんだか、媚びているように思われて。フラットに接することができなかった。女子校に行ったことで改善されたそれは、今また躊躇われるようになった。媚びているように感じる。図に載ってしまった。ひどくならないうちに、去ったほうがいい。でも、もう少しいたかった。ごめんね。

 

彼女と話していて楽だったのは、なんだろう、とても楽しかったな。快活な方で、邪気がなく、人を疑わなく、かわいらしかった。いっそ清々しい。あそこまでなのは珍しい。大好き。話がはずんで楽しい。楽しかったけど、私がとんでもないことをしていて、本当に驚いた。乗じちゃいけないものに乗じて、それとして振る舞うのはよくないことを振る舞った。若い愛想の良い見れた容姿の女として振る舞っていた。そういう女として、彼らからの恩恵を享受していると私が言った。私が認めた。そう言われて、容姿を褒められて、嬉しくもあった。醜い。汚い。それから、これは忠告ですが、彼らは、エースたちは、別に私にそこまでの価値も何も置いてないと思います。図に乗るなよ。距離感を間違えるなよ。

 

明日の彼は、フラットでいいなと思う。フラット、私は私の経歴を、多少なりとも(様々な観点から)色眼鏡で見るけれど、彼はそういうんじゃなくて、もっとフラットに、価値判断なく、単なる事実として持っているように思う。それでいて、利他がある。かっこいいのだ。私の、ささやかな憧れ。

 

私が気付いたけど、仕事内容、仕事自体が好きなんじゃなくて、人が好きなんだ。それだけ。彼らが好きなだけ。仕事は別に、悪くはないんだけど、もう興味は満たされたし、条件が私には難しくて、できるなら方向転換をしたい(したほうがいい)から、彼らに対してきちんとして、やれるだけやって、あとは寝て待てばいいかなと思った。手土産を持って、挨拶をしに行こうね。よかったらたまに遊んでくださいねと言って。